小川会計コラム 2021年4月9日

小川会計グループでは、業務に役立つコラムを配信しております。

【今回のコラム】

国税庁提供の申告書作成チェックリストを活用しない手はない

2021年4月5日(月)

所轄が税務署ではなく国税局である法人

一般の法人は、本店住所地に従い所轄の税務署が決まります。しかしながら、原則として資本金1億円以上の法人及び外国法人については、東京他11の国税局と沖縄国税事務所の調査課所管法人となります。普通の法人は所轄税務署で、大規模法人は国税局所管となるという位置づけです。

申告書自主点検と税務上自主監査の確認表

国税庁では、調査課所管法人が申告書を提出する前に、申告書の自主点検や税務上の観点からの自主監査に活用できる確認表を作成しています。確認表を活用することで、申告誤りの未然防止とともに、税務調査で処理誤りが指摘されるリスクを軽減することができるようになっています。

確認表は、「申告書確認表(様式)」と「大規模法人における税務上の要注意確認表(様式)」の2つがあります。PDFを印刷して使えるほか、Excel形式でダウンロードもできます。法人税と消費税のチェックリストとして使えます。

「申告書確認表」では、別表ごとに特に間違えやすい(=混乱しやすい)注意点を確認できます。調査課所管法人向けなので、資本金1億円以上か否かで、中小企業に該当するかどうか分かれることで規定が変わってくる項目(=軽減税率適用や交際費課税など)の間違えやすいポイントを押さえています。

「税務上の要注意確認表」は、収益、費用から資産計上に関する項目まで、幅広く、要点を押さえたリストとなっています。もちろん「資本金1億円以上の調査課所管法人向け」なので、一般の法人には当てはまらない項目が中心ですが、法人税と消費税の全般にわたって確認すべきチェックリストとしてどの法人にもお勧めです。

「(自社版)確認表」を作成し活用しよう!

国税庁のサイトからExcel形式でダウンロードできるようになっていますので、せっかくですから、自社用の確認表に作り変えて活用しましょう。

大規模法人用の項目を外し、自社(=その業界)に独自の項目を加えます。その際、過去に税務調査で指摘された事項も盛り込みます。確認表は税理士事務所に監修してもらって使えば毎年の税制改正項目にももれなく対応できます。

こうしたリストの活用で、申告項目の誤りの未然防止ができれば、会社自身、税理士事務所、税務署の皆がハッピーです。

配偶者手当の見直しについて

2021年4月6日(火)

配偶者手当の見直し検討を

成果主義が言われ始めたころから、基本給に加えて支給される各種手当の見直しが行われるようになりました。特に配偶者手当については、女性活躍や同一労働同一賃金、雇用の多様化などの影響により、廃止する傾向は進むと思われます。

配偶者手当は、パートタイム労働で働く配偶者の就業調整の要因として指摘されています。これによって賃金相場の上昇が抑制され、あるいは女性の能力を十分に発揮できないなどの影響があり、企業が人的資源を十分に活用できない状況をもたらしているとされます。

その状況を改善するため、厚生労働省は、配偶者の働き方に中立的な制度となるよう配偶者手当の見直しを進めることが望ましいとし、参考となるリーフレットの改定版を公表しました。(配偶者手当の在り方の検討に関し考慮すべき事項 (mhlw.go.jp)

手当見直しのポイントと事例

廃止する場合の具体的な事例としては、該当額を基本給に組み込む、子供・障害者を対象とした手当を創設するなど、人件費総額を維持した事例があります。また2~3年ほどの経過措置期間を設けて、徐々に減額していく、あるいは賞与で補填するなどの対応を行った企業もあります。企業個別の事情に則った検討が必要ですが、ポイントとしては、①ニーズの把握など従業員の納得性を高める取組、②労使の丁寧な話合い・合意、③賃金原資総額の維持、④必要な経過措置、⑤決定後の新制度についての丁寧な説明、があげられます。

見直しを行うにあたっては就業規則の変更となりますので、その変更に合理性があるかどうか、必要な手続についても考慮しましょう。

手当の見直しは従業員の収入に直結する話ですので、労使間の丁寧な話合いが求められます。また、配偶者手当だけではなく、給与制度全体を見直す機会にするのもよいでしょう。

相談先としては、都道府県労働局や働き方改革推進支援センターに窓口があります。

労使間で納得のいく給与にしていきたいですね。

YouTuberにも国際課税の洗礼

2021年4月7日(水)

3年連続でランク上昇「YouTuber」!

学研教育総合研究所の小学生が将来就きたい職業アンケートによると、「YouTuberなどのネット配信者」は、90年代から男子人気の筆頭であった「プロサッカー選手」を抜き、いまの憧れの職業となっています。ほんの一部の人に集中しているようですが、ものすごく稼いでいる人がいる職業の一つでもあります。

税務情報提出不履行で収益最大24%控除

2021年3月10日、YouTubeを傘下に持つグーグルの日本法人が、動画配信サイト「ユーチューブ」の投稿者に対し、税務情報の提出を義務付けると発表しました。これは、「米国内国歳入法第3章及び第4章における最終規則の公表」の影響によるものであり、日本在住のYouTuber(=非米国居住者)に対してグーグル(=米国源泉所得を支払う者)がAdSense(=広告収入)を支払うことに起因しています。

グーグルから広告収入を得る日本のYouTuberには、個人の税務情報である納税者番号(=日本の場合はマイナンバー)の提出が求められます。税務情報の提出がなされれば、適正な課税処理となりますが、税務情報の提出が不履行であれば、全広告収入の24%が差し引かれる場合があるということです。この税金控除は当年6月から実施されるので、税務情報の提出(=グーグルAdSenseの届出書)を5月31日までに行うことが求められています。

日米租税条約が適用されれば源泉税ゼロ

本件の課税対象所得は、広告収入のうち、米国の視聴者による収益です。①適正な税務情報の提出で日米租税条約が適用されれば源泉税は免除されゼロとなります。②優遇措置を申請してもそれが受けられなければ、米国の税法により米国視聴者による収益の30%が源泉税となります。③税務情報の提出がなければ、どこの国の視聴者による収益かが区分されることなく、全収益の24%が控除されることになります。

適正な届出をすれば恐れる必要のない話ですが、すわ“YouTuberにも国際課税の洗礼か!”というニュースでした。

ちなみに、これが逆の場合(=日本の視聴者による広告収入を日本の会社が非居住者に支払う場合)は、源泉税は20.42%となります。もちろん、個別に租税条約の適用は可能ですが、居住国の課税当局の居住者証明の原本提出が求められることなど、結構面倒な手続きとなります。

儲けのあるところに課税ありです。適正な手続きで最適な課税を。

障害者の法定雇用率引き上げへ

2021年4月8日(木)

対象事業主の範囲が広がります

令和3年3月1日から、民間企業に求められる障害者雇用率が現行の2.2%から2.3%に引き上げられました。この変更にともない、対象事業主の範囲も従業員45.5人以上から43.5人以上に広がります。

該当する事業主は、毎年6月1日時点の障害者雇用状況をハローワークに報告しなければなりません、また、 障害者の雇用の促進と継続を図るための「障害者雇用推進者」を選任することが努力義務となります。雇用率算定対象となる障害者は、身体障害者手帳1~6級に該当する方、知的障害者、精神障害者で、常時雇用していればアルバイトやパートも対象となります。

障害者雇用納付金の計算にあたっては、令和2年度分(令和3年4月1日~5月15日申告分)は新旧の雇用率を使った計算となります。具体的には、令和3年2月以前分は現行の法定雇用率(2.2%)、 令和3年3月のみ新しい法定雇用率(2.3%)で算定します。詳細はこちらご確認ください

https://www.mhlw.go.jp/content/000691446.pdf

障害者雇用に関する支援制度

障害者雇用の支援機関としては、ハローワーク、地域障害者職業センター(各都道府県に設置)、障害者就業・生活支援センター(全国334か所設置)があります。

各機関からは、雇用管理上の助言や助成金の案内などの支援を受けることができます。たとえばトライアル雇用からスタートする場合、トライアル雇用助成金(月額4万円/1人~など)が利用できます。継続して雇用する場合には特定求職者雇用開発助成金(中小企業80万円など)、初めての雇用に対する助成金(中小企業120万円)もあります。

障害者の雇用にあたっては障害への理解、職場環境を整えるなどの配慮が求められます。その副次的な効果として、ほかの従業員の働きやすさが向上し、マネジメント力強化につながることもあります。自社での雇用イメージがわかない場合には、他社事例を調べてみましょう

https://www.ref.jeed.go.jp/index.html

一緒に働く従業員とのコミュニケーションも大事ですね。

副業が事業所得となる日は来るか?

2021年4月9日(金)

コロナ禍で会社員の副業が身近なものとなっています。国は成長戦略の中で既に新しい働き方として兼業・副業推進の環境整備に取り組んでいます。しかしながら、副業に対する所得税の扱いは旧来のままです。

給与所得と事業所得の違い

副業に対する所得税の扱いで最初に問題になったのは、給与所得に該当するのか事業所得に該当するのかという論点でした。

最高裁昭和56年判決は、給与所得とは、会社との雇用契約のもと、使用者の指揮命令を受ける従属関係において提供される労務の対価であり、事業所得は、「自己の計算と危険」のもと、独立して営まれ、営利性、有償性、反復継続して遂行する意思と社会的地位が客観的に認められる業務から生ずる所得であると判示しました。

副業は事業所得か?雑所得か?

副業が雇用関係になく従属関係もない場合、給与所得でないことは明らかです。とすれば副業は事業所得になると理解してよいでしょうか? この点、課税庁は、副業を「一般的に雑所得である」としており、給与収入に対する副業収入の規模や、設備の状況、営業日数(会社勤務の時間以外にどれくらい割り当てるか)などを勘案して雑所得と判定しているようです。平成30年頃までは、上記の要素を勘案して副業の損失金額を事業所得の損失と認めず、他の所得との損益通算を認めなかった判例が多くあります。

副業が事業所得となる日は来るか?

これからは、会社員は勤務のかたわら、副業を普通に行えるようになり、自己の能力を高め、人脈を広げ、経験を積み重ねていくことでしょう。自身の労働時間を管理し、秘密保持と競業避止義務を守り、「自己の計算と危険」のもと働くことになります。

しかし、雑所得には、青色申告制度が適用されず、他の所得と損益通算も青色申告特別控除などの特典もありません。青色申告制度の趣旨は、自主的な納税申告のため、適正な帳簿の作成を勧奨するものです。

副業を営む会社員は、適正な帳簿を作成することで管理意識が高まり、自律した仕事の仕方に転化していくことでしょう。経営者にとっても社員のスキルが高まり、社外から新たに優秀な人材を確保する機会になるのではないでしょうか。副業が普通に事業所得と同様に位置付けられることはないのか。さて税の対応は?

会社の仕事も副業も成長の糧になる。