小川会計コラム 2021年5月14日

小川会計グループでは、業務に役立つコラムを配信しております。

【今回のコラム】

70%損金算入M&A

2021年5月6日(木)

デューデリジェンス

デューデリジェンスとは、M&Aでの買収監査のことで、買収対象企業やその事業に関する情報を収集、分析及び検討する手続きです。経営、法務、財務、人事、IT、税務、その他の観点から行われ、M&Aでの信頼性、対価・取引条件の適正性、リスクの洗い出し、などを行い、M&Aの最終判断へのゴーサインを担保するために実行されます。

リスクの契約的回避

デューデリジェンスが行われても、将来事項であるリスクがすべて解明されるわけではありません。

それで、M&Aの契約時には売り主が買い主に対し、財務や法務で虚偽事項がないことを表明し保証するのが一般的です。

それでも、リスクの顕在化を回避できず、紛争になったり、財産的損害が生じたりすることがあります。

M&A保険の普及

また、最近は、保険会社がM&A保険の商品化に積極的になっています。

売り手に表明保証違反があった時に買い手が被る損害を補償する保険とか、買い主から契約違反などで補償を請求された場合に売り手が被る損害を補償する保険とか、目にするようになっています。

税制によるリスク回避補償

そして最後に、買収会社の株式の価格の低落による損失に備えるため、その株式等の取得価額の70%以下の金額を中小企業事業再編投資損失準備金として積み立てたときは、その積み立てた金額は、その事業年度において損金算入できることとする、というリスク緩和税制が登場します。

M&Aを国策とする上で、リスク管理を税制としても取り組んでおきたい、ということで今年の税制改正で創設されました。

ただし、この準備金は、積み立て後5年を経過し事業年度以降5年間で準備金残高の均等額を取り崩して、益金算入します。

ちなみに、この税制の適用を受けるには、中小企業等経営強化法の経営力向上計画認定を受けていなければならず、その対象となるその株式等の取得価額が10億円以下という要件があります。

リスクを取るという成長戦略もある

テレワーク支援のための助成金創設

2021年5月7日(金)

テレワーク導入による人材の確保

厚生労働省は4月1日、「人材確保等支援助成金(テレワークコース)」を新設しました。良質なテレワークを新規に導入し、労働者の人材確保や雇用管理改善を行う中小企業を支援するものです。

支給の種類は、「①機器等導入助成」と「②目標達成助成」の2つがあります。①の機器等導入によってテレワーク環境を整備した上で、離職率を下げること(かつ離職率30%以下)ができた企業は、②の助成を受けることができます。

助成金の対象となるのは、以下の5つにかかる経費です。

  1. 就業規則・労働協約等の作成・変更
  2. 外部専門家によるコンサルティング
  3. テレワーク用通信機器の導入・運用
  4. 労務管理担当者に対する研修
  5. 労働者に対する研修

③の機器に含まれるものは、ネットワーク機器、サーバー機器、WEB会議関係機器などです。PC、タブレット、スマートフォンの費用については支給対象外であることにご留意ください。

支給額は、「機器等導入助成」でテレワークを可能とする取組に要した額の30%、目標達成助成で20%に相当する額等。対象項目ごとに上限が設定されているなどの基準もありますので、詳細はリーフレットをご覧ください。

https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000766164.pdf

導入のためのガイドライン

厚生労働省では、従来あったガイドラインについて改定を行っています。労務管理を中心に、書類のペーパーレス化や労災補償など、事業者が検討すべき事項の全体がつかめる内容となっています。

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/shigoto/guideline.html

テレワークは、コロナ対応という一時的なものではなく、働き方改革推進の観点からも推奨されています。従業員が安心して働ける環境を作るために、現状の振り返りから始めてみてはいかがでしょうか。

安心して働ける環境はうれしいですね。

審判事例を教訓にM&Aリスク回避も

2021年5月10日(月)

完全親子会社間での配当

国税不服審判所の公表裁決の中に、株式の譲渡を受けた3ヶ月後に会社の決算が行われ、その決算後4ヶ月の時に臨時株主総会を開催し、中間配当の決議をして配当を実行したところ、配当を受け取った親会社のした法人税の申告で、受取配当に係る所得税額の法人税額からの控除は全額ではなく、12分の3とするべきとの更正処分を受けたという事案があります。

親子会社間の配当は、益金不算入で、かつ、源泉徴収された所得税も前払法人税として回収できるという前提があるので、大きな額で配当が行われることが多いかと思われます。それなのに、突然、源泉所得税の還付に制限を受けてしまったわけです。

源泉税が100%戻らないリスク

裁決は、配当が1年前以前に設立された法人から設立の日以後最初に支払われた剰余金の配当に該当すると認定した上で、配当計算期間の初日は配当の支払いに係る基準日の1年前の日の翌日となることから、配当計算期間の月数は配当計算期間の初日から配当の基準日までの12ヶ月になるとし、その上で、請求人の元本所有期間の月数は7ヵ月としました。裁決で、12分の3の制限は、12分の7の制限に緩和されましたが、それでも、12分の5は予想外の損失になったままです。

株式取得から12ヶ月経過する前の配当には、このようなリスクがあることに注意する必要があります。そればかりでなく、配当の益金不算入の規定にも似たような配当計算期間の規定があるので、配当益金不算入のところでも制限をうけるリスクに見舞われる可能性があります。

リスク回避のシナリオの用意も

令和3年度税制改正の中には、強力なM&A促進税制が二つあります。買主側M&Aでは取得額の70%の損金算入という過激な制度創設です。

今年からは、M&Aが活発になることが予想されます。M&A事例では、株式の譲渡を受けるという、この裁決事例にあるのと同じ場面に立つので、場合によっては、配当というリスク場面にも遭遇することも増えそうです。

再譲渡の計画があると、短期所有株式に該当してしまうリスクもあります。先に、リスク回避のシナリオを用意しておく周到さも、M&Aには必要かもしれません。

無期転換ルールに取り組む企業を支援

2021年5月11日(火)

ワークブックを使った社内制度の整備を

無期転換ルールとは、有期労働契約を無期労働契約に転換するルールのことです。

契約が通算で5年を超えて繰り返し更新された場合、労働者からの申し込みがあれば、企業は対応が必要となります。

平成25年4月に法律が施行されて以降、厚生労働省はポータルサイト(https://muki.mhlw.go.jp/)からの情報発信を継続して行ってきました。

基本的な知識や導入手順を知りたい場合には、「無期転換ルールハンドブック」(https://muki.mhlw.go.jp/policy/handbook2018.pdf)があります。制度を反映したモデル就業規則についてのガイドブック(https://muki.mhlw.go.jp/policy/modelwork.pdf)もありますが、ルールの解説を読むだけでは、自社導入のイメージがつくりづらいかもしれません。その場合には、「無期転換ルールに対応するための取組支援ワークブック」を使ってみましょう。(https://muki.mhlw.go.jp/policy/workbook_201125_01.pdf

このワークブックでは、企業が円滑に無期転換ルールに対応できるよう、演習を交えながら必要な取組について解説されています。巻末のワークシートを活用することにより、8つのステップをたどりながら、無期転換ルールに対応するための手順を実践することができます。

導入済みの企業も活用できます

ステップの前半は、導入目的の整理や現状把握など前提の確認となっており、具体的な実施案の検討は後半となります。すでに制度がある企業は、ステップ7「就業規則の改定箇所の検討」と、ステップ8「社内周知事項の整理」を見てみましょう。就業規則や社内周知の対応で抜けやもれがないか、改めて確認するために活用できます。

また、ポータルサイトには取組についての企業事例が掲載されています。製造業や金融、小売、サービス業など業種は多岐にわたり、従業員数は100名規模から数万人の大企業の事例もあります。同じ業種や規模感の企業の事例を参考にしてみてください。(https://muki.mhlw.go.jp/business/case/

ステップに合わせて使えるワークシートが便利ですね。

コロナ禍におけるメンタルヘルス

2021年5月12日(水)

ラインによるケアと忙しい管理職

企業におけるメンタルヘルス対策の一つに、管理監督者が行う「ラインによるケア」があります。これは、働く人が自身のこころの不調に対応できないでいる時、管理監督者の「気づき」から始まります。

たとえば、部下の様子を見ていて、「元気がなさそうだな」と気づくことです。以前と比べて遅刻が増えているとか、服装に乱れがあるとか、言動などの変化からわかることもあります。この「いつもと違う」というところに、早く気付くことが大切になります。

しかし、管理監督者には、業務のマネジメントや部下の評価など求められることが非常に多くあります。プレイングマネージャーの場合は、部下のケアまでなかなか時間が取れないということもあるでしょう。リモートワークが推奨されている環境下では、様子を見ることが難しくもあります。

ケアの工夫と、コロナ禍における実践例

ではどうしたらよいのでしょうか。3月に実施された「令和2年度職場のメンタルヘルスシンポジウム」は、ラインによるケアの実践をテーマに行われました。視聴動画がポータルサイト「こころの耳」で公開されています。(令和2年度「ラインによるケアの実践」|こころの耳:働く人のメンタルヘルス・ポータルサイト (mhlw.go.jp)

専門家による解説では、「ラインによるケア」を効果的に行うには、「管理監督者の経験と知恵」を活かした良いサイクルをつくること、そのための研修の実施方法について、知ることができます。

企業からの実践報告では、管理監督者が実際に行っている事例や、コロナ禍での取組を聞くことができます。たとえば、リモートワークでも部下が相談しやすいように、「あらかじめ対応可能な時間や方法を伝えておく」ことで、コミュニケーションの向上を図っているといった、現場の工夫です。

コロナ禍においては、既存の知識や対策だけでは対応できないこともあります。社員の声に耳を傾け、社員の状況をよく把握すること。現場の工夫を吸い上げ、広く共有していくことが、大切なようです。

いま、みんなが考えていることを共有する時間が大切ですね。

住民税と所得税の異なる課税方式選択手続が簡素化

2021年5月13日(木)

異なる課税方式の選択が可

上場株式等の配当所得の課税方式には、①総合課税、②申告分離課税、③申告不要制度があります。この課税方式の選択における所得税と個人住民税での関係について、平成29年度の地方税法の改正で、解釈の確認と言える規定が設けられました。すなわち、上場株式等の配当所得や源泉徴収選択口座内の譲渡所得等について、所得税と個人住民税とで異なる課税方式を選択できることが明確化されました。

所得税と住民税の様式の不整合

しかし、所得税の確定申告書の住民税に係る記載欄には、住民税での課税方式の選択欄がありません。従って、所得税と住民税で、異なる課税方式を選択する場合には、個人住民税納税通知書送達日(5月下旬頃)前に、所得税とは異なる課税方式選択の旨を伝える申告書等の提出が必要でした。

有利不利の目安

課税総所得金額が1000万円以下の場合(上場株式等の譲渡損失なし)であれば、所得税では総合課税、個人住民税では申告分離課税又は申告不要制度を選択するパターンが一般的には有利です。

ちなみに、後期高齢者保険料や国民健康保険料の負担も、個人住民税に係る申告による所得をその料額計算の基礎としていますので、課税方式の選択の効果はここにも及びます。

日税連の税制建議と今年の税制改正

なお、平成の終わり頃、この課税方式選択に係る住民税額や保険料額の長期に亘る決定誤りがあったと公表する自治体が続出していました。これを承けて、日本税理士会連合会は2019年7月22日提出の「税制改正建議書」の中で、「上場株式等の配当所得等に関し、個人住民税において所得税と異なる課税方式を選択する場合の申告手続を簡素化すること」を申し入れていました。

今年の税制改正大綱では、個人住民税において、特定配当等及び特定株式等譲渡所得金額に係る所得の全部について源泉分離課税(申告不要)とする場合に、原則として、確定申告書の提出のみで申告手続が完結できるよう、確定申告書における個人住民税に係る附記事項を追加する、とされ、税理士会の要望が実現しています。

令和3年分からの所得税の確定申告書作成では、住民税欄の附記事項記載に要注意です。

来年からは、便利になるけど、住民税欄に注意しないと

70歳迄の就業努力義務

2021年5月14日(金)

今までの雇用確保とは違う就業形態

4月から施行された70歳までの就業確保努力義務、長期的には人手不足の緩和のため高齢者に長く働いてもらいたい、年金の受給開始延長にもつなげたいという意図もあると思えますが、会社や個人はどのような対策を取れるのでしょうか?

高年齢者雇用安定法の改正点

今までは本人が希望すれば原則的に65歳までの雇用が確保される制度でしたが、今回の65歳以上、70歳未満の就業を可能にする制度では大きく違う点が2つあります。

一つは70歳までの就業確保措置は努力義務であるということです。65歳を超えて働いてもらうために、一定の裁量権が与えられ、後述の5種類の措置のうち複数を組み合わせたり、対象者を全員としなくとも選抜したりもできます。選抜基準は過半数代表者との協議が必要とされています。また、新制度では元の勤務先と無関係の会社が再雇用先になることもあります。

二つ目は65歳以上の対象者と労働契約は結ばず雇用以外の働き方をさせることも認められ、フリーランスや個人事業主として業務委託契約で就業させたり、又は会社が関係する社会貢献団体で働かせることもできます。

65歳以上の働き方のパターン

  1. 70歳までの定年の引き上げ……定年を60歳や65歳から70歳にする。雇用は維持されるが退職金の問題などを決めなおす必要があり
  2. 定年廃止……定年制度自体をやめる。体力が続く限り就労もあり
  3. 70歳までの継続雇用制度……有期で反復雇用、他の会社で雇用、能力による処遇。一般的に賃金は下がる
  4. 70歳までの継続的な業務委託……仕事内容、対価は会社と相談し決定、会社の指揮命令は受けない。労働基準法は適用されず労働法の保護はない
  5. 70歳までの継続的な社会貢献活動……会社が実施または委託等する出資団体の活動に参加。勤務先は選べない

以上のように70歳までの雇用を確保する場合、会社の方針は何なのか、自分ではどのように働きたいのか、健康面等、会社の提案をよく考えて検討することが必要でしょう。

業務委託契約で働く時は労働法の保護はないので自分で事故に備えましょう