小川会計コラム 2022年4月15日

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【今回のコラム】

民法の改正による 電子領収書の提供請求権 を可とする

2022年4月11日(月)

書面主義を卒業

昨年9月1日施行の民法改正があり、商品等の買い手は売り手に対し、書面での領収書に代えて電子領収書の交付を請求できることになりました。書面主義だった民法が変わったのです。

条文としては、弁済者に電子領収書の交付請求権があり、弁済受領者には、不相当な負担でない限り、それに応ずる義務があると、しています。弁済者には、領収書の提供方式が書面と電子のいずれに依るのかの選択権が与えられたわけです。

保存・閲覧の可能状態

電子領収書の発行とは、弁済者が電子領収書を保存、あるいは閲覧し得る状態にすることです。閲覧する電子領収書は、撮影等による画像保存が可能でなければなりません。アプリ上で画面表示された領収書の内容を撮影画像として保存されたものも、弁済がなされたことの証拠として一定の価値を有する、と案内されています。

「不相当な負担」の意味

また、「不相当な負担」の意味は、次のような場合のことです。

  1. 請求時点において弁済受領者側に電子領収書提供情報システム等が整備されていない
  2. 請求時点においてシステム障害等による電子領収書発行困難事情がある
  3. 弁済者の要求が弁済受領者側の対応困難な方式での電子領収書である

なお、電子領収書の発行システム等の体制整備がされているにもかかわらず、前例がないことを理由にしたり、たまたま対応した従業員に操作能力がなかった、というような場合については、「不相当な負担」には当たりません。

インボイスとの兼ね合い

また、令和5年10月より適格請求書等保存方式(インボイス制度)が導入されますが、「民法上の受取証書」と「区分記載適格請求書(インボイス)」では、必要とされる記載事項が異なります。ただし、「民法上の受取証書」と、それ以前に発行されている請求書や納品書を含めて、インボイスが必要としている事項、①請求書発行者の氏名又は名称、②取引年月日、③取引内容、④税率ごとに区分して合計した税込対価の額、⑤請求書受領者の氏名又は名称、が記載されていれば、これを保存することにより消費税の仕入税額控除の適用を受けることができます。

領収書

令和4年度の雇用保険料率は年度途中で段階的に引き上げ

2022年4月12日(火)

雇用保険財政の現状

2022(令和4)年3月23日、令和4年度予算が国会で成立しました。

雇用保険財政は、コロナ禍での雇用調整助成金の支出が累計5兆円を超え、雇用保険の積立金が不足したため、国庫からの支出(借入)で補っている状況です。

雇用保険の積立金は2015(平成27)年度には過去最高の6.4兆円もありましたが、2022(令和4)年度末の残高は0.05兆円(500億円)と推計され、雇用安定事業費(雇用調整助成金が主)への貸出累計3.1兆円と合わせると、実質3兆円超のマイナスとなっています。

令和4年度の雇用保険料率

雇用保険財政の悪化により、令和4年度以降の雇用保険料率は引き上げが避けられないと言われていました。

しかし、コロナ禍で企業業績は依然厳しく、異例ですが、激変緩和措置として年度途中で段階的に引き上げられることになりました。

今回の改定による雇用保険料率の新旧比較は、次のとおりです。

雇用保険料率の新旧比較(一般の事業※)

令和
3年度
令和4年
4~9月
令和4年10月~
事業主6/10006.5/10008.5/1000
従業員3/10003/10005/1000
合計9/10009.5/100013.5/1000
  • 農林水産・清酒製造の事業は、事業主・従業員各1/1000を上表に加算
  • 建設の事業は事業主2/1000、従業員1/1000を上表に加算

給与計算や年度更新の際に注意が必要

第1段階の年度前半の上げ幅は、事業主の0.5/1000だけですが、第2段階の年度後半の上げ幅は、事業主・従業員ともに年度前半に比べて、各2/1000となります。

年度内に複数の保険料率が適用される上、上げ幅も異なりますので、給与計算や次回の労働保険料の年度更新の際には、注意が必要となります。

カスタマーハラスメント 対策は進んでいますか?

2022年4月13日(水)

カスタマーハラスメントも対策が必要です

2022(令和4)年4月から、中小企業にもパワーハラスメント(以下、パワハラ)防止努力義務が課されます。

パワハラと言えば、一般には上司と部下、先輩と後輩など、社内でのハラスメントがイメージされがちです。

近年、社外の顧客や取引先から従業員に対する暴言、限度を超えたクレーム、強要などの迷惑行為により、従業員が心身に支障をきたし休職や退職につながるといった、カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)が、社会的な問題になっています。

従来「お客様は神様」と言われてきましたが、企業には従業員をお客様から守る対策が求められているのです。

カスタマーハラスメントのパターン

今年の2月に、厚生労働省は「カスタマーハラスメント企業対策マニュアル」を公表しました(同省ホームページからダウンロードできます)。

このマニュアルでは、企業が悩む顧客等からの行為を、次のように分類しています。

時間拘束
拘束・居座り等
リピート型
頻繁なクレーム等
暴言
恫喝、罵声等
揚げ足取り
電話や応対時
脅迫
言動による脅し等
権威型
特別扱いの要求等
SNSへの投稿
企業・社員の名誉棄損
過度な要求
値下げ返金要求等
コロナ禍関連
マスク着用拒否等
セクハラ
つきまとい、盗撮等
その他
不法侵入・立入等

企業としてどんな対策が必要か?

厚生労働省は、企業が取るべき対策として、「カスハラの判断基準を明確にした上で、企業の考え方、対応方針を統一して現場と共有しておくことが重要」としています。

つまり、顧客の要求に妥当性があるか、要求の手段等が社会通念上相当かなどの基準を決めて、現場との共有が求められます。

キャリアアップ助成金の変更点 ~縮小・厳格化が進む~

2022年4月14日(木)

キャリアアップ助成金とは

キャリアアップ助成金は、非正規労働者のキャリアアップを促進するため、正社員化や処遇改善に対する助成金です。

助成内容の縮小や条件の厳格化が、今回の改正の特徴となっています。

令和4年度予算が成立し、雇用保険法施行規則の改正はあるものの、大枠の変更はないと思われますので、現時点で予定されている変更点の概要をお知らせします。

正社員化コース・障害者正社員化コース

正社員転換または直接雇用への切り替えに対する助成金です。

令和4年4月以降、正社員化コースでは、有期→無期が対象外となり、有期→正社員(57万円/人)と、無期→正社員(28.5万円/人)のみとなります。つまり、単なる無期転換では助成されなくなります。

令和4年10月以降、両コース(正社員化・障害者正社員化)の共通改正事項として、正社員の定義に「賞与または退職金の制度」かつ「昇給」の適用が追加されます。助成を受けるには、昇給があり、かつ賞与が支払われるか退職金制度が必要となります。

また、非正規雇用労働者の定義が、現行の6か月以上雇用している有期または無期雇用労働者に、「賃金の額または計算方法が『正社員と異なる雇用区分の就業規則等』の適用を受けていることが追加されます。

つまり、正社員とは別の賃金規定や就業規則等の整備が必要になります。

その他のコースでの変更点

賃金規定等共通化コースは、正社員と共通の職務等に応じた賃金規定等の整備に対する助成金です。今回、2人目以降の対象労働者に対する加算が廃止されます。また、家族手当・住宅手当・健康診断が対象外となり、対象は賞与と退職金のみ(正社員との共通化までは必須でない)となります。

短時間労働者労働時間延長コースは、延長すべき週の所定労働時間が5時間以上から3時間以上へ緩和され、助成額の増額措置が令和6年9月末まで延長されます。

ふるさと納税で減額の特別交付税額の決定取り消し

2022年4月15日(金)

ふるさと納税の影響で交付税減は違法?

2022年3月10日、大阪地方裁判所は、総務省が泉佐野市に対して行った令和元年度の特別交付税の額の決定を取り消す判決を出しました。

「ふるさと納税の収入を特別交付税の減額要因とするのは違法」という判断が下されたのですが、そもそもこの「特別交付税」とは何なのでしょうか?

特別交付税とは?

地方交付税制度は、本来地方の税収入とするべきものを、団体ごとの税制不均衡を調整して、すべての地方団体が一定の水準を維持しうるように、国税として国が地方に代わって徴収して、合理的な基準によって再分配する制度です。

普通交付税は、人口密度や道路面積、学校数、気象条件等様々な要素を反映し、さらに市民税や固定資産税等の基準財政収入額と照らし合わせて、計算されるものです。

対して特別交付税は、普通交付税で捕捉されなかった、災害に関する経費や、地域の交通確保、産業の振興等の特別な財政需用があることや、基準財政収入額の算定が著しく過大に算定されていたものが対象となります。文字通り「特別な事情により交付される額」ということです。ちなみに総額の割合は普通交付税が94%、特別交付税が6%とされています。

省令で変更はダメだと判断

特別交付税は「地方交付税法」によって定められている制度で、今回の判決はこの法ではふるさと納税の寄附によって得た金額を「基準財政収入の算定に入れない」という確認を行っています。それを省令改正によって算定に組み込むのは「地方交付税法の委任の範囲を逸脱した」違法なものだと判断しています。

総務省は過去にも泉佐野市に「施行前の実績でふるさと納税制度に参加させないのは違法」との訴えを起こされ、裁判に負けています。過去の訴えも今回の訴えも、泉佐野市に対しての総務省の短慮な対応が問題になっていると言わざるを得ません。

交付税減額については2022年3月14日に国が控訴を行っているので、まだ敗訴決定ではありませんが、どうにも分が悪いように思えます。

他にも特別交付税をふるさと納税の額を理由に減額されている自治体があります。